耀州窯

中国陜西省耀県銅川市附近に分布し、中国陶磁史において有名な窯場である。 唐から元・明に至るまでの長期間活動し、その作風は華北・華南に影響を与え、隆盛をきたした。 初唐には黒釉磁、盛唐には三彩や素胎黒花をつくり、中唐には青磁が登場する。宋代に入って片刃彫りや型押しによって文様をあらわしたオリーブ・グリーンの青磁を作り上げたことで、その技術の高さを知らしめた。金代以降は、次第に黄褐色の釉に変化し、その作風を変えながら明代以後まで続いていく。
1930年代に入って威陽から銅州への鉄道建設に伴い、大量の耀州窯青磁が発見された。これらは多くのコレクターの注目を浴びることとなり、「臨汝窯」「汝窯」と呼ばれ(一部「東窯」とも呼ばれる)、欧州では「北方青磁」などと称されるが、この時点で耀州窯についてはっきりとしたことは分かっていなかった。のちの1950年代にはいって、陜西省文物管理委員会により耀州窯の本格的な調査が始まる。 1954年に銅川市黄堡鎮にて陳万里が「徳応候碑」を発見、彬県の窖蔵から大量に出土し、耀瓷図録」が出版される。その後も陳万里や馮先銘らによって調査が進むにつれ、耀州窯についての認識が高まっていった。発掘調査によると晩唐から元にかけての長期に渡り、多くの製品が作られていたと考えられ、さらには宮廷への貢磁も焼成していたと思われる。 1984年から1994年にかけて陜西省考古研究所により、黄堡鎮の大規模な発掘調査が行われ、唐代の三彩や青磁、五代の官銘のあるもの、また「東窯タイプ」と称されるものなど多くの遺物が発見される。この成果は中国陶磁史において非常に重要な意味を持つこととなった。

唐代の耀州窯
唐の都、長安から80km程の距離にあり、燃料となる材木や陶土などにも豊富に存在し、漆河の両岸に広がり耀州窯黄堡鎮は製陶地としての条件に恵まれていた。唐代の耀州窯について報告されている「唐代黄堡鎮址<陜西省考古研究所 文物出版社 1992>」によると、黄堡鎮では初唐期に黒釉磁,茶緑末釉磁などが、盛唐期では唐三彩,白磁などが焼成されており、晩唐には花釉薬なども見られる。 当時、南方の青磁に対して北方では白磁の技法に優位があったが、耀州窯では刑州窯などに比べ粗い感じのする白化粧を施したものに留まり、青磁については越州窯の影響を受けているのか蛇の目高台の碗が見つかっている。 唐三彩は河南省鞏県や河北省刑州窯より、少し時代の下がった盛唐期から中唐期にかけて生産されていたと思われ、黄堡鎮でその遺品が多く発見されている。

宋代の耀州窯
北宋にはいると、それまでの青磁とは釉色が変化し、耀州窯として最も知られているいわゆるオリーブグリーンの青磁があらわれるようになる。また、装飾技術についても五代の青磁を踏襲している。その要因の一つが燃料の変革による窯炉の構造変化である。それまでの燃料は薪を利用していたのに対し、長年の使用により薪の調達が困難になったため石炭へと移り変わり、窯炉もまた石炭に対応できるように変化していった。この他にも陶土の精錬や釉薬の改良など製陶技術にも大きな進展がみられ、歴代の耀州窯の中でも際立った優品を生み出している。 五代に既に用いられていた劃花・剔花の技法を発展させた刻花の新たな技法を創り出す。文様の輪郭を斜めに幅広く削り、さらに細部について劃花で表すという、より立体的で優雅な線を表現することに成功した。また、宋代中期にはより複雑な文様を表現する印花が登場し、陶範を用いて文様を写し取る技法が確立された。このような装飾技術の発達により、花卉樹木・瑞獣珍禽をはじめ魚類・人物などの非常に多彩な題材を表現することが可能となったことで、中国国内をはじめてとして海外でも大きな人気を博すようになった。

金代の耀州窯
宋代晩期につくられた月白釉と青磁釉の2種類が主流となり、その造形も宋代のものに比べて少し厚みを増し丸みを帯びたつくりとなってくる。刻花・印花ともに引き続き用いられるが、その文様は少なく、釉薬が厚く掛かることで玉のような質感を持つようになる。 金代においては北方で唯一の青磁窯であったことから金の朝廷にも献納されいるが、後期から元代にかけては生産量の増大とともに文様も簡素となり、青磁としての厳しさを失うにつれ、衰退への道のりを歩んでいった。 <宋 刻花牡丹文水注> <宋 印花宝相華文碗> □さまざまな文様 唐から元に及んだ長期の活動期間において、様々な技法を凝らしながら、多くの文様が表現された。 文様構成はその技法に大きく依存し、特に印花には非常に多くの題材が残されている。

参考文献
(中文)
科学出版社 陝西銅川耀州窯 陜西省考古研究所 1965
美乃美 中国陶瓷全集 10 耀州窯
文物出版社 唐代黄堡鎮址 陜西省考古研究所 1992
文物出版社 五代黄堡鎮址 陜西省考古研究所 1997
文物出版社 宋代黄堡鎮址 陜西省考古研究所 1998
(和文)
文中堂 支那青磁史稿 小山冨士夫 1943
河出書房 世界陶磁全集10 小山冨士夫 1956
平凡社 陶器全集10 唐宋の青磁 小山冨士夫 1965
小学館 世界陶磁全集12 宋 矢部良明 1977
平凡社 陶磁大系36 青磁 小山冨士夫 1978
大阪市立東洋陶磁美術館 中国美術シリーズ5 耀州窯の青磁 1991
平凡社 中国の陶磁4 青磁 1996
<欧文>
「Chinese Celadon Wares」, Faber and Faber, G.St.G.M. Gompertz, 1958
「Illustrated Catalogue of Celadon Wares」, University of London, Margaret Medley, 1977
「Ice and Green Clouds, Traditions of Chinese Celadon」,
Indianapolis Museum of Arts, Mino Yutaka, 1987

収蔵美術館
東京国立博物館
京都国立博物館
出光美術館
大阪市立東洋陶磁美術館
静嘉堂文庫
耀州窯博物館(中国)
ギメ東洋美術館(フランス)
クリーブランド博物館(米国)