磁州窯

中国、河北省磁県彭城鎮を中心とした華北最大の窯場。特定の窯の名称ではなく、この地域でつくられた製品の総称として用いられることが多い。隋代に隋青磁を産するが、一般に唐末期より磁州窯磁としての製品が盛んに焼かれるようになる。宋代から元代にかけその最盛期を迎え、明・清代を経て現在に至っている。素地は灰色であるために、白土を化粧掛けし、透明釉を施して焼き上げた。白無地のものを白釉陶と呼び、鉅鹿(きよろく)とも称す。その白化粧をヘラで掻き陰刻などを施したものを白地掻落としと呼ぶ。磁州窯の中で最も評価が高いのが、白黒掻落としであり、これは白化粧ののち黒泥を掛け、その肌の黒泥のみを掻き落として白黒の文様を描き出したものである。その他、白化粧の上に黒泥で文様を描いた白地鉄絵、緑釉を施した緑釉手、宋三彩、宋赤絵、練上手、墨流し手、柿釉手、飴釉手、河南天目、油滴天目といった様々な技法をもち、河北・河南・山西・山東各省ほとんどの民窯で焼かれた。

鉅鹿の発見
中国・河南省南部の町名。1920年井戸を掘ったところ多くの陶片が出土。天津博物館の調査から、1108年(大観二年)に障河の氾濫により、町が黄土の下に埋没していたことが判明した。出土した陶器は北宋・大観二年以前であることは明確であり、宋代陶磁の研究に大きな発展をもたらす結果となった。出土品は磁州窯系の陶器であり、この時期どのように生活の中に使われていたかが明らかとされ、白無地の白釉陶が多かったことから、のちにこれらを鉅鹿手と称するようになった。

窯の構造・燃料
日本や朝鮮、南中国の多くでは傾斜地につくられた登り窯が主流で窯全体が煙突の働きをする構造であるのに対し、窯跡調査報告によると磁州窯は馬蹄形(円形)をした横長の焼成室をもつ北中国の基本形ともいえる形式で、これは定窯や耀州窯といった窯とよく似た形をしている。世界的にも平地に築窯される場合が主流でギリシャ,ローマから現在のヨーロッパまでこの形式の窯が使われている。 磁州窯系の窯は石炭を燃料としてつかっており築窯も炭鉱の近くにされることが多い。 燃料の調達が容易であることは当然のこととして、石炭層の上下には良質の粘土層があり、また化粧掛けに使われる白土と鉄分を含んだ岩石も豊富にあることが、その大きな要因となっている。加えて水簸(土の精製)などのために製陶には大量の水が消費されることから、良質の水があることも必要条件とされた。

加飾技法
磁州窯系のやきものは半磁器とも呼ばれる堅く焼き締まった灰色の素地からできており、この上にきめの細かい白土を水で溶いて掛けることにより、白無地の磁州窯が生まれた。このやわらかな白化粧を基本としてさまざまな装飾のための技法が考えられ、時代の流れとともに美しさの表現方法を変えていった。
多彩な文様
文様の多様さは民窯であった磁州窯の自由な風土の中からつくりだされ、政治的な束縛を得ない土壌であったからこそさまざまな技法を凝らし、より美しい文様の形成への意欲が生み出されていったのだろう。そして、この多様性こそが磁州窯の魅力の一つとなっているのではないだろうか。
陶器の枕-陶枕-
六朝時代以前の玉枕から引継ぎ、唐・宋代に流行する。さまざまな形や文様がみられ各地で生産されていたが、その中でも磁州窯は数も種類とも秀でており、また多くの優品も生み出していった。

参考文献
(中文)
文物 観台窯址発掘報告 河南省文化局文物工作隊 1959
文物 河南省密県・登封唐宋窯址調査簡報 河南省文化局文物工作隊 1964
文物 河南省鶴壁集古代瓷窯址調査簡報 河南省文化局文物工作隊 1964
文物出版社 観台磁州窯址 北京大学考古学系、河北省文物研究所、邯鄲地区文物保管所 1997
(和文)
雄山閣 陶器講座6 中国Ⅱ・宋
平凡社 陶器全集13 宋の磁州窯 1958
平凡社 陶磁体系39 磁州窯 1974
平凡社 中国の陶磁7 磁州窯 1996
河出書房 世界陶磁全集10
宋遼編 小学館 世界陶磁全集12 宋
(欧文)
「Sung Ceramic Designs」, Bulletin of the Museum of Far Eastern, Jan Wirgin, 1970
「Yuan Porcelain and Stoneware」, London, Margaret Medley, 1974
「Freedom of Clay and Brush through Seven Centuries in Northern China」,
Indianapolis Museum of Arts, Mino Yutaka, 1980

収蔵美術館
東京国立博物館
京都国立博物館
出光美術館
白鶴美術館
大阪市立東洋陶磁美術館
静嘉堂文庫美術館
大英博物館(英国)
サンフランシスコ・アジア美術館(米国)
ネルソン・ギャラリー(米国)
ギメ美術館(フランス)

 

 

 

 

 

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